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東京地方裁判所 平成5年(ワ)9928号 判決

原告

甲野太郎

乙野二郎

原告ら訴訟代理人弁護士

井手大作

被告

株式会社ライフ

右代表者代表取締役

渡邉秀明

右訴訟代理人弁護士

羽野島裕二

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野太郎に対し、金二五四万四六五〇円及びこれに対する平成五年六月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  原告甲野太郎と被告との間において、原告甲野太郎と被告との間の平成三年七月二五日付けオートクレジット契約に基づく原告甲野太郎の被告に対する金五九三万四六〇〇円の債務が存在しないことを確認する。

3  原告乙野二郎と被告との間において、原告甲野太郎と被告との間の平成三年七月二五日付けオートクレジット契約に関する原告乙野二郎と被告との間の同日付け保証契約に基づく原告乙野二郎の被告に対する金五九三万四六〇〇円の債務が存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  被告は、割賦購入あっせん等を目的とする株式会社である。

2  原告甲野太郎(以下「原告甲野」という。)は、平成三年五月五日、訴外株式会社アローモータース(以下「訴外会社」という。)から、フェラーリ社「テスタロッサ」タイプのレプリカ自動車(原型はポンティアック)一台(以下「本件車両」という。)を代金一〇三〇万円で購入し(以下「本件売買契約」という。)、被告との間において、右代金のうち金六五〇万円に関し、同年七月二五日付けで左記オートクレジット契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結し、原告乙野二郎(以下「原告乙野」という。)は、その際、被告との間において、本件立替払契約に基づく原告甲野の被告に対する債務を連帯保証する旨約した(以下「本件保証契約」という。)。

(一) 立替払金 金六五〇万円

(二) 手数料  金一九七万九二五〇円

以上合計金八四七万九二五〇円

(三) 割賦方法 平成三年八月末日限り 金一四万二五五〇円

平成三年九月から毎月末日限り 金一四万一三〇〇円

3  原告甲野は、本件売買契約締結から約三か月後、訴外会社から一旦本件車両の引渡しを受けたが、車体に異常があったため、訴外会社が引き取って修理した後改めて引渡しを受けることとなった。

4  しかしながら、訴外会社は、平成五年二月末日ころ、倒産し、また、本件車両の登録名義も平成三年八月五日に訴外会社代表取締役訴外宮内嘉美に移転されていたが、訴外会社は、平成三年末ころ、訴外有限会社秋山商事に売却し、平成四年三月二七日、登録名義を移転したので、本件売買契約の本件車両引渡義務は履行不能となり、本件売買契約は解除された。

5  原告甲野は、平成三年八月以降、被告に対し、本件立替払契約に基づき合計金二五四万四六五〇円(金一四万二五五〇円+金一四万一三〇〇円×一七回)を支払った。

6  ところで、前記4のとおり、本件売買契約は履行不能となり解除されたところ、原告甲野は、割賦販売法三〇条の四に基づき、これを被告に対抗することができるから、被告は、原告甲野に対し、既払割賦金二五四万四六五〇円について不当利得返還義務があり、また、原告甲野及び原告乙野は、被告に対し、未払割賦債務又は保証債務金五九三万四六〇〇円(金八四七万九二五〇円―金二五四万四六五〇円)の支払義務はないというべきである。

7  よって、原告らは請求の趣旨記載の判決を求める(附帯請求の遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日であり、その割合は商事法定利率による。)。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3のうち、原告甲野が訴外会社から一旦本件車両の引渡しを受けた事実は認め、その余の事実は知らない。

4  請求原因4のうち、訴外会社が、平成五年二月末日ころ、倒産した事実は認め、本件車両の登録名義が平成三年八月五日に訴外会社代表取締役訴外宮内嘉美に移転されており、訴外会社が、平成三年末ころ、訴外有限会社秋山商事にこれを売却し、平成四年三月二七日、登録名義を移転した事実は知らず、その余の主張は争う。

5  請求原因5の事実は認める。

6  請求原因6の主張は争う。

なお、被告は、平成三年八月五日までに、訴外会社に対し、本件立替払契約に基づく立替金を支払った。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一原告らの本訴請求は、仮に、原告ら主張の請求原因事実がすべて肯認されたとしても、以下のとおり、理由がないから棄却を免れない。

二1  原告らの本訴請求は、割賦販売法三〇条の四所定の割賦購入あっせん業者に対する抗弁権を行使することにより、未払割賦金債務が消滅し既払割賦金の返還請求権が発生することを前提とするものである。

2 しかしながら、割賦販売法三〇条の四は、購入者保護の観点から、創設的に、購入者が割賦購入あっせん業者(以下「あっせん業者」という。)から立替払契約に基づく割賦金支払の請求を受けた場合に、一定の要件の下、立替払契約とは別個の契約に関する事由であって本来当然には対抗することができない売買契約につき割賦購入あっせん関係販売業者(以下「販売業者」という。)に対して生じている事由を抗弁として対抗できることとし(最高裁判所平成二年二月二〇日判決)、売買契約における問題が解決されるまでの間、一時的に未払割賦金の支払を拒絶できることとしたものと解され(規定文言上もこのように解するのが最も自然である。)、これを超えて、右抗弁権の行使により、実体的に、売買契約とは別個の契約である立替払契約に基づく債権債務自体が消滅する、すなわち、購入者の側から積極的に右抗弁権を行使して未払割賦金債務を消滅させたり既払割賦金の返還を請求したりできるものと解することは困難である。

3 そして、このことは、購入者が行使する抗弁権の内容が商品未引渡による売買契約の解除であっても、同様と解される。

もっとも、右のように解するとしても、販売業者が倒産するなどして資力を有しない場合においては、購入者が抗弁権を行使すれば、事実上、立替払契約に基づく未払割賦金債務が存在しないのと同様の結果となる(本件についていうと、原告甲野において本件売買契約を解除しこれが有効であれば、原告らは、事実上、被告に対する未払債務の支払を免れることとなる。)が、法律上は、購入者は、販売業者に対し売買契約解除に基づく原状回復請求権たる代金返還請求権等を有しているのであって、その弁済を受けた上、その限度であっせん業者に対し割賦金の支払を再開すべきこととなる余地があるから、立替払契約に基づく未払割賦金債務が法律的に消滅しているということは困難であり、また、割賦販売法三〇条の四の立法趣旨に照らしても、このような場合においても未払割賦金の支払拒絶を認めれば一応十分であると解される。

かえって、販売業者無資力の場合において購入者が売買契約解除の抗弁権を行使したときに、立替払契約に基づく債権債務が消滅し既払割賦金があっせん業者の法律上の原因を欠く不当利得になると解するとすれば、いわゆる自社割賦販売における同様の事例では購入者が事実上既払割賦金の返還を受けることができないことと均衡を失することにもなりかねない。

4  よって、原告らが本訴請求の前提とする割賦販売法三〇条の四に関する解釈は採用できないところ、請求原因2及び同5の各事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成三年八月五日までに、訴外会社に対し、本件立替払契約に基づく立替金を支払ったことが認められるから、原告らは、現在、被告に対し、支払を拒絶できる状態にあるか否かはともかくとして、本件立替払契約又は本件保証契約に基づき各自金五九三万四六〇〇円の債務を負っているというべきである。

三以上のとおり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官畑一郎)

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